問題設定
格子定数が\(b\),\(c\),\(b\),\(c\)と交互に伸び縮みした場合を考える(\(b + c = 2a\))。この場合のエネルギーバンドを求めよ。これは、格子定数\(a\)一定の系が、歪んだと見ることができる。ただし、最近接原子の飛び移り積分のみを考慮し、原子間距離が\(b(c)\) のものの飛び移り積分を\(t(t′)\) とおく。
また、s軌道のみを考え、エネルギー固有値を\(E=E_s\)とする。
上図の格子定数\(a\)一定の系の場合はYoutubeで説明しています。
解答
タイトバインディング
詳しくはこちらの動画で説明しています。
タイトバインディング計算とは、結晶の電子状態を、各原子の原子軌道の線形結合で展開することでブロッホ関数を構成してハミルトニアンを形成し、その固有値を求めるという計算方法である。ハミルトニアンは
$$H_{\lambda’ \lambda} = \varepsilon_{\lambda}\delta_{\lambda’ \lambda} + \sum_{{\bf r}_j \neq 0} e^{i {\bf k}\cdot {\bf r}_j} t_{\lambda’ \lambda}({\bf r}_j)$$
と書け、これを対角化することでエネルギーバンドが得られる。ここで\(\lambda\)は原子軌道、\(\varepsilon_{\lambda}\) はそのエネルギー準位、\(t_{\lambda’ \lambda}\)は隣接する原子軌道間の飛び移り積分、\({\bf r}_j\)は飛び移り積分を考える2つの原子間の座標ベクトルである。
ハミルトニアン
単位格子は図の赤線で囲ったものになり、単位格子内に原子が2つ存在する。単位格子内の左側の原子をA、右側の原子をBとすると、系の波動関数\(\psi\)は、Aの重ね合わせによるBloch波動関数\(\phi_A\)と、Bの重ね合わせによるBloch波動関数\(\phi_B\)の線形結合
$$\psi = C_{{\rm A}} \phi_{{\rm A}} + C_{{\rm B}} \phi_{{\rm B}}$$
で表される。
ハミルトニアンは、\(\phi_A\)と\(\phi_B\)を基底とした\(2\times 2\)の行列
$$\begin{align} \mathcal{H} = \begin{pmatrix} H_{{\rm AA}} & H_{{\rm AB}}\\ H_{{\rm BA}} & H_{{\rm BB}}\end{pmatrix}\end{align}$$
で書ける。ここで行列要素は
$$H_{\lambda \lambda’} = \langle \phi_{\lambda} | \mathcal{H} | \phi_{\lambda’} \rangle \hspace{5mm} (\lambda,\lambda’ = {\rm A},{\rm B})$$
である。
行列要素の計算
まず、s軌道のみを考慮するので、対角成分は
$$\begin{align} H_{{\rm AA}} = H_{{\rm BB}} = E_s \end{align} $$
となる。
次に、非対角成分
$$\begin{align}H_{{\rm AB}} &= \langle\phi_{{\rm A}} |\mathcal{H} | \phi_{{\rm B}}\rangle\\&= \sum_{ x_{j} \neq 0} e^{i k x_{j}} t_{{{\rm A}}{{\rm B}}} (x_{j}) \end{align}$$
を計算する。この式は原子Aから原子Bに飛び移る積分を表しており、最近接のみを考慮すると、
$$\sum_{ x_{j} \neq 0} e^{i k x_{j}} t_{{{\rm A}}{{\rm B}}} (x_{j}) =t e^{i k b} + t’e^{-i k c}$$
となる。よって
$$H_{{\rm AB}} = t e^{i k b} + t’e^{-i k c}$$
が得られる。同様に計算すると
$$H_{{\rm BA}} = t e^{-i k b} + t’ e^{i k c}$$
が得られる。
したがって,行列\(\mathcal{H}\)は
\begin{align}\mathcal{H} = \begin{pmatrix}E_s & t e^{i k b} + t’e^{-i k c}\\t e^{-i k b} + t’ e^{i k c} & E_s\end{pmatrix}\end{align}
となる。
エネルギー固有値
先ほどの行列を対角化する。エネルギー固有値を\(E\)とおいて永年方程式
$$\begin{align}|\mathcal{H} – E I| &= 0\\&= \begin{vmatrix}E_s-E & t e^{i k b} + t’e^{-i k c}\\t e^{-i k b} + t’ e^{i k c} & E_s-E\end{vmatrix}\end{align}$$
を解く(\(I\)は単位行列)。計算すると
$$ \begin{align} (E – E_s)^2 &= (t e^{ i k b} + t ‘ e ^{-i k c}) (t e^{ -i k b }+ t ‘ e^{i k c})\\& = t^2 + (t’ )^2 + tt’ [e^{ik(b+c)} + e^{-ik(b+c)}] \\&= t^2 + (t’ )^2 + 2tt’ \cos k(b+c) \\&= t^2 + (t’ )^2 + 2tt’ \cos 2ka\end{align}$$
となるので、エネルギー固有値は
$$E_{\pm} = E_s \pm \sqrt{t^2 + (t’ )^2 + 2tt’ \cos 2ka} $$
である。
エネルギーバンド
格子定数\(a = 1.0\)、\(E_s = 0.0\)に固定して、バンド分散関係を示す。ここで第1Brillouin領域は、格子長が\(2a(=b+c)\)であるので、
$$\begin{align}-\frac{\pi}{2a} \le k \le \frac{\pi}{2a}\end{align}$$
である。
- \(t \neq t’\)のとき
\(k = 0\)及び\(k = \frac{\pi}{2a}\)でのエネルギーを計算する。まず\(k = 0\)のとき、
$$\begin{align}E_{\pm} &= E_s \pm \sqrt{t^2 + (t’ )^2 + 2tt’} \\&= E_s \pm \sqrt{(t + t’)^2}\\&= E_s \pm |t + t’|\end{align}$$
となる。次に\(k = \frac{\pi}{2a}\)のとき
$$\begin{align}E_{\pm} &= E_s \pm \sqrt{t^2 + (t’ )^2 – 2tt’} \notag\\&= E_s \pm \sqrt{(t – t’)^2}\\&= E_s \pm |t – t’|\end{align}$$
となる。よって、エネルギーギャップ
$$\begin{align}\Delta E_{k = 0} = 2|t + t’| \\\Delta E_{k = \frac{\pi}{2a}} = 2|t – t’|\end{align}$$
が得られる。
- \(t = t’\)のとき
エネルギー固有値のルートの中は
$$\begin{align}t^2 + (t’ )^2 + 2tt’ \cos 2ka &= 2t^2 + 2t^2 \cos 2ka \\&= 2t^2 + 2t^2 (2 \cos^2ka -1) \\&= 4t^2 \cos^2ka\end{align}$$
となるので、
$$E_{\pm} = E_s \pm |2t\cos ka| $$
となる。これは格子定数\(a\)一定の場合と同じである。(Youtubeで説明しています。)
考察とまとめ
\(E_s\)をフェルミエネルギーとすると、\(t\neq t’\)ではフェルミエネルギーにギャップができている。つまり,\(t=t’\)のときは金属状態であり、\(t \neq t’\)のときは絶縁体、あるいは半導体である。
一般に一次元系では格子が歪んだ方が規則的に並んでいるよりも電子のエネルギーが下がり、系が安定になる。この相転移を電荷密度波転移、あるいはパイエルス転移という。
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